2014年10月2日木曜日

金木犀

 フジファブリックのアルバムを聴きながら帰り道を歩く。イヤホンから『赤黄色の金木犀』が流れだす。折しも金木犀の季節、花の形は見えずとも甘い香りが漂って、街全体が秋に浸されているようだ。


 志村正彦が死んだ2009年、私は高校生だった。ある朝友達が沈んだ顔をして教室にやってきて、志村さんが死んでしまった、と言った。別の友達がそれに応え、2人が悲壮な空気になったのを、私は突然異国に放り込まれたような気分で端から眺めていた。その日、家に帰ってYouTubeで初めてフジファブリックの『銀河』を聴いた。
 志村が死んでからその曲を聴き始めた私には、彼の音楽はショパンや夏目漱石と同じ、歴史上の存在だ。永遠に更新されることのない、完結した過去。けれどあの日「志村さんが死んでしまった」と言った友達にとって、それは紛れもなく喪失だったのだ。
 それを思うにつけ、私はフジファブリックに出会ったのが志村正彦の死後で良かったと思う。おかげで私は自分の中から志村正彦を失わずに済んだのだ。彼女達と違って。


「僕は残りの月にする事を
決めて歩くスピードを上げた」

『赤黄色の金木犀』のフレーズを聴きながら、私はあとどれくらい生きられるのだろうと考える。やりたいことを、あといくつできるだろうかと。

 息を吸えば肺いっぱいに甘い空気が満ちる。この季節も、きっとあっという間に終わってしまうだろう。

0 件のコメント:

コメントを投稿