2016年4月7日木曜日

モラトリアムダイバー

 高校の終わりくらいから大学生ごろまで「大人になりたい」というのが私の中で大きなテーマだった。
何を決めるにも他人の様子を窺ってしまう優柔不断さだとか、親に養われているくせにいっちょまえに偉そうな口を叩いていることとか、そういう自分のダサさをひっくるめて「子ども」と呼んで厭った。
 自分で自分のことを決められること、自分の力だけで生きてくこと。それが実現できないと何を言っても説得力がないような気がしたし、誰かと対等に渡り合うこともできないような気がした。だから一刻も早く子どもであることを捨てたかったし、子どもであることを止めれば大人になれるんだと思っていた。

 あれから早数年、社会人4年目を迎えた私の周囲は今、最初の結婚ラッシュを迎えている。同年代のそういう話を聞くたび、いやいやちょっと早すぎるんじゃないの? と思ってしまう。
この気持ちは、高校の時に同級生が校則違反の化粧をしているのに気づいた時の気持ちに似ている。そこには二つの感情が混在していて、一つは「校則違反じゃん」で、もう一つは「まだそんなことしなくていいのに」だった。すっぴんで堂々としていられるのなんて今くらいなんだから、化粧なんてしなくてもいいじゃん、という気持ち。
夫婦になったり親になったり、そんなに急いで次のステップへ進まなくてもいいよ。まだ学生のころみたいにみんなで遊ぼうよ。そんな風に構えていたら周りが次から次へと結婚したり、子どもが生まれたりするものだからあっけに取られてしまう。彼らとの心持ちの差に。そこに全く追いつけない自分の幼さに。

前は確かに誰よりも早く大人になりたかったのに、いつからわだかまりたいと思うようになったのだろう。
未成年だからお酒を飲んじゃいけないよ、校則違反だから化粧をしちゃいけないよ。それと同じで、私は自分がまだこの先へ進むことを許されていないような気がしていた。許可が下りるまで今のままでいいのだと思っていた。だけど冷静になってみれば、誰もそんなこと禁じていないし、許可を待つ義務もないのだった。ただ自分で勝手にセーブをかけているだけだった。
そこまでわかっていても、どうやったらそのロックが解除できるのかわからない。重要なアイテムやイベントをスルーしたまま進んでしまって、次のステージに進めずに途方に暮れているRPGの主人公みたいな気分だ。

私はたぶん、この先へ進むことで、今までできていたことが出来なくなってしまうことを恐れている。時間やお金や行動に自由が利かなくなり、掴めたはずのチャンスを失ってしまうことを懸念している。一度そこへ行ってしまったらもう元には戻れないんだろうと、その不可逆性を想像しては尻込みして足踏みをしている。化粧を覚えたせいで、もうすっぴんでは出かけられなくなってしまったみたいに。

無意識に誰かのゴーサインを待ってしまう私は、どうやらまだモラトリアムのまっただなかだ。アイテムを全部取りきるまで、マップを完成させるまで、ここでできることは全部やりきったと言えるまで、当分ここから先へは行けそうにない。

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